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マルチスレッド営業とは?複数キーパーソンを押さえて受注率を高めるBtoB営業の実践ステップを解説

2026.08.23

  • BtoBセールス

「担当者は乗り気だったのに、稟議で止まって失注した」「キーパーソンが異動した途端、商談が消滅した」——BtoB営業でよくあるこの失敗の多くは、接点が1人に依存する「シングルスレッド営業」が原因です。その対策として近年注目されているのが、商談先の複数の関係者と並行して関係を築く「マルチスレッド営業(マルチスレッディング)」です。本記事では、マルチスレッド営業の基本、効果を示すデータ、実践ステップ、組織に定着させる方法までを解説します。

マルチスレッド営業とは?シングルスレッドとの違い

マルチスレッド営業とは

マルチスレッド営業とは、1つの商談に対して顧客側の複数のステークホルダー(現場担当者・上長・決裁者・情報システム・購買部門など)と同時並行で関係を構築する営業手法です。糸(スレッド)が1本ではなく複数本張られている状態をイメージすると分かりやすいでしょう。

対義語となるシングルスレッド営業は、窓口担当者1人だけとやり取りを重ねるスタイルです。一見効率的に見えますが、次の3つのリスクを抱えています。

  • 伝言ゲームのリスク:提案価値が担当者経由でしか社内に伝わらず、意図が正しく決裁者に届かない。
  • 人依存のリスク:担当者の異動・退職・優先度変化で商談そのものが消える。
  • 反対者が見えないリスク:検討の場に出てこない部門(情シス・法務・購買など)の懸念が終盤で噴出し、土壇場で失注する。

BtoBの購買はもともと集団意思決定です。Gartnerの調査では、BtoBの購買には平均して6〜10人の関係者が関与するとされます。買い手が複数人で検討しているのに、売り手の接点が1人だけでは、構造的に不利な戦いになるのです。

なぜ今マルチスレッドが必須なのか——データで見る効果

データで見る効果

マルチスレッド営業の効果は、商談データの分析によって裏づけられています。営業会話分析プラットフォームのGongが公開している調査では、次のような結果が報告されています。

  • 複数のステークホルダーと接点を持つ「マルチスレッド化された商談」は、シングルスレッドの商談と比べて受注率が約2.5倍高い。
  • 受注に至った商談は、失注した商談と比べて2回目の商談に参加する顧客側の人数が2倍以上多い。
  • 売り手側の経営層を適切なタイミングで商談に関与させると、受注確度が大きく高まる(ただし初期のディスカバリー段階での投入は逆効果になり得る)。

また、リモートワークの定着により意思決定への参加者がオンラインで増えたこと、担当者の転職が以前より頻繁になったことも、シングルスレッドのリスクを高めています。「担当者と仲良くなる」だけの営業から、「買い手の組織全体を動かす」営業への転換が求められているのです。日本企業の場合はさらに、稟議制度という独特の意思決定プロセスがあります。稟議書は担当者が起案し、複数の関係部門が順に承認していく仕組みのため、「承認ルート上の誰か1人の懸念」で案件が止まります。マルチスレッド営業は、この承認ルート上の関係者に事前に接点を持ち、懸念を先回りで解消しておく営業手法だと言い換えることもできます。決裁プロセスそのものへの対策は、BtoB営業の稟議対策の解説記事でも詳しく解説しています。なお、オンライン商談が主流になったことで「商談の録画・議事メモから顧客側の参加者と発言を振り返る」ことも容易になりました。誰が前向きで誰が沈黙しているかを商談後にチームで確認し、次に接点を持つべき相手を特定する——こうした振り返りの習慣も、マルチスレッド化を支える実務のひとつです。

マルチスレッド営業の実践5ステップ

実践5ステップ

マルチスレッド営業は「手当たり次第に名刺を集める」ことではありません。次の5ステップで計画的に進めます。

  • ステップ1:ステークホルダーマップを作る:商談ごとに「経済的決裁者/現場の利用者/技術評価者/推進者(チャンピオン)/潜在的な反対者」を整理し、誰と接点があり誰が空白かを可視化する。
  • ステップ2:チャンピオン経由で紹介を依頼する:「上長の○○様にもご同席いただけると、稟議に必要な情報を直接ご説明できます」など、相手のメリットを添えて紹介を依頼する。窓口を飛ばして勝手に接触するのはNG。まず担当者との信頼関係が前提です。
  • ステップ3:役職・部門ごとに刺さる価値を変えて伝える:現場には業務効率、部門長にはKPI改善、経営層には投資対効果と戦略整合、情シスにはセキュリティと運用負荷——同じ製品でも「翻訳」して伝えます。
  • ステップ4:エグゼクティブ同士の面談を設定する:検討が中盤以降に進んだら、自社の役員・事業責任者と相手の決裁者の面談を設定し、組織対組織の関係に引き上げる。
  • ステップ5:接点をCRM/SFAに記録し、次の一手を決める:商談ごとに「接点を持てている人数」を記録し、2回目以降の商談に顧客側の参加者を増やす働きかけを標準動作にする。

具体的なイメージとして、SaaSの商談を例に考えてみましょう。情報収集で問い合わせてきたのはマーケティング部の担当者。初回商談で課題をヒアリングしたら、2回目の商談では「実際に運用される方のご意見も伺いたい」と現場リーダーの同席を依頼します。デモの後には「導入時のシステム要件を確認したい」と情報システム部門との個別打ち合わせを設定し、提案書の提出前には「投資対効果のご説明の機会を」と部長との面談を打診する——このように、商談プロセスの各段階に「新しい参加者を招く名目」をあらかじめ埋め込んでおくのがマルチスレッド営業の実務です。1回の商談で一気に人脈を広げるのではなく、段階ごとに1本ずつ糸を増やしていきます。

役職別アプローチ設計のポイント

役職別アプローチ

マルチスレッドの成否は「誰に・何を・どの順番で」伝えるかの設計で決まります。実務では次の点を押さえましょう。

  • チャンピオンを孤立させない:推進役の担当者が社内で説明に窮しないよう、稟議書のたたき台・比較表・FAQ・導入事例など「社内説得用の武器」を提供する。
  • 反対しそうな部門に先回りする:情シス・法務・購買は終盤に登場して商談を止めがちです。セキュリティチェックシートや契約書ひな形を早期に提示し、懸念を前倒しで潰します。
  • 接触の名目を用意する:「ご挨拶」だけでは多忙な決裁者は動きません。業界動向の共有、他社事例の紹介、無償診断の報告会など、相手にとって価値のある名目を設計します。
  • KPIを相手の言葉に翻訳する:同じ効果でも、現場担当者には「作業時間が週5時間減る」、マーケティング責任者には「リード獲得単価が下がる」、経営層には「投資回収期間と売上インパクト」と、相手が社内で評価される指標に置き換えて伝えます。提案書も1種類ではなく、現場向けの機能詳細版と決裁者向けのサマリー版を分けて用意すると、稟議のスピードが変わります。
  • 分業体制と連動させる:インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの分業(THE MODELの解説記事参照)と組み合わせ、役割ごとに接点を持つ相手を決めておくと、組織的にマルチスレッドを維持できます。

組織に定着させる仕組みとチェックリスト

定着のチェックリスト

マルチスレッド営業は個人技で終わらせず、営業組織の標準動作にしてこそ効果が出ます。定着のためのチェックリストを掲載します。

  • 主要商談すべてでステークホルダーマップを作成しているか
  • CRM/SFAに「顧客側の接点人数」を記録し、商談レビューで確認しているか(目安:重要商談で3名以上)
  • 2回目商談への「追加参加者の招待」をトークスクリプトに組み込んでいるか
  • 役職別の提案資料・社内説得用コンテンツを整備しているか
  • 自社役員を商談に投入する基準とタイミングを決めているか
  • 担当者異動による商談消滅の件数を計測し、改善につなげているか

なお、チャンピオン(社内推進者)が本物かどうかを見極めることも重要です。判断の目安は「社内の検討状況や競合の情報を教えてくれるか」「あなたのために社内で動いてくれた実績があるか」「決裁者へのアクセスを持っているか」の3点です。単に感じよく対応してくれるだけの担当者をチャンピオンと思い込み、実際には社内で何も動いていなかった——というのはシングルスレッド営業の典型的な失敗パターンです。

接点が1本しかない商談は、いつ切れてもおかしくない糸の上に成り立っています。複数の糸を計画的に張ることが、受注率と商談スピードを同時に高める近道です。まずは進行中の重要商談1件でステークホルダーマップを作るところから始めてみてください。

導入はスモールスタートで構いません。今期の重要商談から3件を選び、ステークホルダーマップを書いてみる——それだけで「実は決裁者に一度も会えていない」「情シスの意向を誰も把握していない」といった穴が可視化されます。営業マネージャーの役割も重要です。商談レビューの場で「この案件、他に誰と話せている?」「次の商談に誰を呼ぶ?」と毎回問いかけるだけで、メンバーの行動は変わります。個人のセンスに頼らず、レビューの問いとCRMの項目に落とし込むことが、組織としてのマルチスレッド化の第一歩です。

Semuis株式会社では、BtoB企業の営業プロセス設計・インサイドセールス立ち上げ・営業コンテンツ整備を支援しています。「商談が担当者止まりで進まない」「営業組織の仕組みを整えたい」という方は、ぜひお問い合わせフォームからご相談ください。

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