営業における「チャンピオン」とは?見つけ方・育て方と商談を前に進める実践ノウハウを解説
2026.08.26
- BtoBセールス
「先方の担当者は乗り気だったのに、社内検討の段階で急に話が止まった」。BtoB営業でよくあるこの失注パターンの多くは、顧客社内に自社の提案を推進してくれる「チャンピオン」がいないことが原因です。営業担当者が同席できない社内会議や稟議の場で、提案の価値を代弁してくれる人がいるかどうかが、受注率を大きく左右します。本記事では、営業におけるチャンピオンの定義と重要性、見つけ方・見極め方・育て方、そして商談を前に進める運用方法までを解説します。
営業における「チャンピオン」とは?重要性と役割

チャンピオンとは、顧客企業の中で自社の製品・サービスの導入を積極的に推進し、社内の合意形成を支援してくれるキーパーソンのことです。単なる「窓口担当者」や「良い反応をくれる人」とは異なり、社内で実際に動いて他の関係者や決裁者を説得してくれる人を指します。
チャンピオンの重要性は、BtoB購買の構造変化から説明できます。Gartnerの調査によると、BtoBの購買意思決定には平均6〜10人の関係者が関与するとされ、営業担当者が全員と直接接点を持つことは現実的に困難です。さらに、国内のシンクパートナーズ社の調査では、84%の決裁者が営業担当者との接触前に購買を決定づける情報にリーチしているという結果も出ています。つまり、商談の勝敗の多くは「営業がいない場」で決まっており、その場で自社を代弁してくれるチャンピオンの存在が不可欠なのです。
ここで注意したいのが、チャンピオンと「コーチ」「アンチチャンピオン」の区別です。コーチは情報提供や助言はしてくれるものの、社内で積極的に動くわけではない人を指します。一方アンチチャンピオンは、競合製品を支持していたり、現状維持を望んでいたりと、自社の提案に反対の立場を取る人です。商談の関係者マップを作る際は、「この人はチャンピオンなのか、単なるコーチなのか、それとも反対勢力なのか」を区別して整理すると、打ち手の優先順位が明確になります。
チャンピオンが果たす役割は主に3つあります。第一に、社内会議や稟議での提案の代弁。第二に、組織図・予算・競合検討状況といった内部情報の提供。第三に、決裁者や他部門のキーパーソンへの橋渡しです。複数の関係者を押さえる考え方については、マルチスレッド営業の解説記事もあわせてご覧ください。
特に日本企業の場合、稟議による合意形成文化が根強く、決裁までに関係部署の事前の根回しが求められるケースが一般的です。営業担当者が根回しの場に立ち会うことはできないため、「社内を回ってくれるチャンピオン」の価値は欧米以上に大きいといえます。稟議プロセスそのものへの対策と組み合わせることで、効果はさらに高まります。
チャンピオンの見つけ方・見極め方

チャンピオンは「役職が高い人」とは限りません。見つける際は、次の3条件で候補者を評価します。
1つ目は、課題への当事者意識です。提案領域の課題に強い問題意識を持ち、解決によって自身の業務や評価にメリットがある人は、推進のモチベーションを持ちやすくなります。商談中に「実は現場ではこういう問題があって」と内情を話してくれる人は有力候補です。
2つ目は、社内での影響力です。発言力があるか、決裁者との距離が近いか、過去に社内プロジェクトを推進した経験があるかを確認します。ヒアリングで「この種の意思決定は普段どのように進みますか」「最終的にどなたの承認が必要ですか」と購買プロセスを尋ねると、その人自身の立ち位置も見えてきます。
3つ目は、実際に動いてくれるかどうかです。これが最も重要な見極めポイントです。「次回までに関係部署の意見を集めてもらえますか」「決裁者の方を次の打ち合わせにお呼びいただけますか」といった小さな依頼(テスト)を行い、実行してくれるかを確認します。口では前向きでも行動が伴わない人は、チャンピオンではなく単なる「好意的な担当者」である可能性が高いといえます。
なお、初回商談の相手が3条件を満たさない場合でも、あきらめる必要はありません。「この課題について社内で最も困っているのはどなたですか」「解決すると最も助かる部署はどこですか」と質問を重ねることで、真のチャンピオン候補にたどり着けるケースは多くあります。窓口担当者を飛ばすのではなく、その人を起点に紹介の連鎖を作る意識が重要です。
チャンピオンの育て方:社内で戦える武器を渡す

候補者が見つかったら、その人が社内で説得活動をしやすくなるよう支援します。ポイントは「営業する側の武器」ではなく「社内で戦うための武器」を渡すことです。
第一に、社内共有用の資料を提供します。営業向け提案書をそのまま渡すのではなく、経営層向けに費用対効果を1枚にまとめたサマリー、情報システム部門向けのセキュリティ要件資料など、社内の反対意見・質問を想定した部門別の資料を用意します。導入事例や他社比較データも、チャンピオンの主張を裏付ける有力な材料になります。
第二に、稟議・決裁プロセスを一緒に設計します。「どの会議体で、誰が、何を懸念しそうか」を洗い出し、想定問答を一緒に準備します。稟議書のドラフト作成を支援するのも効果的です。
第三に、情報格差をなくす定期接点を持ちます。チャンピオンが社内で質問に答えられないと推進力が落ちるため、製品アップデートや競合動向を定期的に共有し、「社内で一番詳しい人」の状態を維持してもらいます。この過程で信頼関係が深まり、内部情報の共有も進みやすくなります。
逆に、チャンピオンとの関係を壊すNG行動も押さえておきましょう。代表例は「チャンピオンの頭越しに決裁者へ直接アプローチする」ことです。社内での立場を軽んじられたと感じさせ、協力関係が崩れる典型パターンです。決裁者への接触は必ずチャンピオンに相談し、「あなたの成果になる形」で場を設計することが原則です。また、実現可能性の低い約束をして社内で恥をかかせることも、信頼を失う大きな要因になります。
商談を前に進める運用:計画への落とし込みとリスク管理

チャンピオンとの関係を受注につなげるには、日々の商談運用に組み込むことが必要です。
まず、合意された行動計画に落とし込みます。「いつまでに誰が何をするか」をチャンピオンと合意し、導入までのスケジュールを共有文書で管理します。この手法はミューチュアルアクションプラン(MAP)として体系化されており、チャンピオンの社内タスク(関係部署への根回し、決裁者への説明の場の設定など)を明文化することで、推進が「善意任せ」になるのを防げます。
次に、チャンピオン1人への依存リスクを管理します。チャンピオンの異動・退職で商談が振り出しに戻るケースは珍しくありません。チャンピオン経由で他部門のキーパーソンや決裁者との接点を増やし、社内に複数の支持者を作っておくことが保険になります。
この運用を組織に定着させるには、営業マネジメント側の仕組み化も有効です。商談管理(SFA)の項目に「チャンピオンの氏名・役職」「実行してくれた行動」を記録する欄を設け、パイプラインレビューで確認する運用にすれば、個人のスキルに依存せずチャンピオン戦略を標準化できます。受注・失注分析の際も「チャンピオンの有無」で分類すると、自社の勝ちパターンがデータで見えてきます。
最後に、チャンピオン不在の商談は早期に見極めます。複数回の商談を重ねても社内で動いてくれる人が現れない案件は、受注確度が低いと判断し、リソース配分を見直すのが合理的です。「この案件にチャンピオンはいるか」を商談レビューの定例チェック項目に加えるだけでも、パイプラインの精度は大きく向上します。
具体的なイメージとして、SaaS導入商談の例を挙げます。情報システム部の課長がチャンピオンの場合、営業側は「経営会議向けのコスト削減試算1枚」「セキュリティチェックシートの回答済みドラフト」「同業他社の導入事例2件」を提供し、課長はそれを使って部長と経理部門を説得、営業は課長の依頼を受けて経営層向け説明会に同席する――このように役割分担が明文化されている商談は、進捗が目に見えて速くなります。逆にこの分担がないまま「社内で検討しておきます」と言われた商談は、次回接点の日程すら決まらず停滞しがちです。
チャンピオンは「見つけるもの」であると同時に「育てるもの」です。候補者の見極め→武器の提供→行動計画への落とし込みという流れを営業プロセスに組み込み、営業がいない場でも提案が前に進む状態を作りましょう。
Semuis株式会社では、BtoB営業プロセスの設計・商談化率の改善支援を行っています。自社の営業組織にチャンピオン戦略を組み込みたい方は、お気軽にお問い合わせください。

Semuis株式会社 代表取締役。BtoBマーケティング・セールス支援、ECコンサルティング、BPO、リスキリング事業を展開。まだ世に広まっていない優良企業の発掘と、挑戦欲の高い個人の成長に貢献することにコミット。趣味はブラジル音楽と筋トレ、読書など。note→ https://note.com/yamakami_semuis
