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プレゼンティーズムとは?“隠れた損失”の測り方と企業・個人でできる改善5ステップ

2026.09.30

  • ウェルビーイング

「休んではいないけれど、頭痛や寝不足でどうも仕事がはかどらない」——多くの職場で日常的に起きているこの状態は、「プレゼンティーズム」と呼ばれ、企業の健康関連コストの中で最も大きな損失要因であることが分かってきました。欠勤や休職と違って表面化しにくいため、対策が後回しになりがちですが、健康経営の分野では「見えない損失」として最重要テーマの一つになっています。本記事では、プレゼンティーズムの意味とアブセンティーズムとの違い、国内外の調査データ、測定方法、そして企業と個人それぞれが今日から取り組める改善ステップまでを分かりやすく解説します。

プレゼンティーズムとは?アブセンティーズムとの違い

プレゼンティーズムとアブセンティーズムの違い

プレゼンティーズム(presenteeism)とは、出勤はしているものの、心身の不調によって本来のパフォーマンスを発揮できていない状態を指す言葉です。世界保健機関(WHO)が提唱した健康と生産性に関する概念で、日本語では「疾病就業」と訳されることもあります。

対になる概念がアブセンティーズム(absenteeism)で、こちらは病気やけがによる欠勤・休職など、そもそも職場に出てこられない状態を指します。両者の違いを整理すると次のとおりです。

  • プレゼンティーズム:出勤しているが不調で生産性が低下している状態。頭痛、肩こり・腰痛、睡眠不足、花粉症、メンタルヘルス不調などが典型的な原因。勤怠記録に現れないため可視化しにくい。
  • アブセンティーズム:欠勤・休職・遅刻早退など勤怠に現れる損失。人事データで把握しやすい。

具体的な場面をイメージすると分かりやすいでしょう。たとえば、慢性的な腰痛で集中が30分と続かない事務職、花粉症の時期に眠気の強い薬を飲みながら接客する販売員、前夜の残業で4時間睡眠のまま商談に臨む営業担当——いずれも出勤はしており、勤怠データ上は「フル稼働」に見えますが、実際のパフォーマンスは大きく低下しています。

重要なのは、プレゼンティーズムは「サボり」ではなく健康問題だという点です。本人は真面目に出勤しているからこそ、周囲も本人も損失に気づきにくく、放置すると症状の悪化や休職、離職につながることもあります。「休まず出勤すること」を評価する組織文化そのものが、結果的に損失を膨らませている場合もあるのです。テレワークの普及で「不調でも自宅なら働ける」という新しい形のプレゼンティーズムが生まれている点も、近年の特徴として指摘されています。

データで見るプレゼンティーズム:健康関連コストの約8割を占める

健康関連総コストに占めるプレゼンティーズムの割合

プレゼンティーズムの影響の大きさは、国内外の調査で繰り返し示されています。経済産業省の「健康経営」関連資料でも紹介されている東京大学政策ビジョン研究センター等の調査(日本の3企業・組織を対象)では、企業が負担する健康関連総コストの内訳は次のようになりました。

  • プレゼンティーズムによる損失:77.9%
  • 医療費(本人・家族の医療・薬剤費):15.7%
  • アブセンティーズムによる損失:4.4%

つまり、目に見える医療費や欠勤よりも、「出勤しているのに調子が出ない」ことによる損失のほうが圧倒的に大きいのです。民間の推計では、プレゼンティーズムによる損失は従業員1人当たり年間数十万円規模、日本全体では十数兆円に達するという試算も紹介されています。

海外でも同様の傾向が報告されており、プレゼンティーズムによる損失はアブセンティーズムの数倍に達するという研究が複数あります。「休んでいないから大丈夫」という見方は、コストの2割ほどしか見ていないことになるわけです。

原因となる症状では、肩こり・腰痛などの筋骨格系の不調、睡眠不足、頭痛、眼精疲労、メンタルヘルス不調、花粉症などのアレルギーが上位に挙がるのが一般的です。季節性もあり、花粉症シーズンの2〜4月や、寒暖差・連休明けで不調が増える時期は、組織全体のパフォーマンスが目に見えて落ちることもあります。いずれも「病院に行くほどではない」と放置されやすい不調である点が共通しています。なお、具体的な損失額は調査対象や測定方法によって幅があるため、自社で活用する際は出典と測定条件をあわせて確認することをおすすめします。

プレゼンティーズムの測定方法:WHO-HPQと東大1項目版

プレゼンティーズムの測定方法(WHO-HPQ・東大1項目版)

プレゼンティーズムは「見えない損失」ですが、質問紙によって定量化する方法が確立されています。代表的な測定尺度は次の2つです。

  • WHO-HPQ(World Health Organization Health and Work Performance Questionnaire):WHOが開発した国際的な尺度。過去4週間の自分の仕事の出来を0〜10点で自己評価し、絶対的プレゼンティーズム(パフォーマンス発揮度)を算出します。国際比較がしやすい一方、日本人は自己評価が低めに出やすい傾向が指摘されています。
  • 東大1項目版(SPQ:Single-Item Presenteeism Question):東京大学の研究チームが開発した簡便な尺度。「病気やけがが無いときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事を評価してください」という1問だけで測定でき、回答負担が小さいため全社調査に組み込みやすいのが特徴です。

測定結果は金額に換算できます。考え方はシンプルで、「年間賃金×パフォーマンス損失割合」が1人当たりのプレゼンティーズム損失の目安です。たとえば年収500万円の従業員が、東大1項目版で「本来の80%しか発揮できていない」と回答した場合、単純計算で年間100万円分の労働価値が失われていることになります。従業員100人の会社で平均発揮度が85%なら、損失は年間数千万円規模——こうして数字にすると、経営課題として優先順位を上げやすくなります。

健康経営優良法人認定(大規模法人部門)の調査項目でも、プレゼンティーズム・アブセンティーズムの測定と経年管理は重要な評価ポイントになっており、測定を始めること自体が健康経営の第一歩といえます。測定時は、①毎年同じ尺度で継続する、②部署別・症状別にクロス集計する、③ストレスチェックや残業データと突き合わせる、の3点を押さえると改善につなげやすくなります。

企業ができる改善施策5ステップ

企業ができる改善施策5ステップ

プレゼンティーズム対策は、原因が多岐にわたるため「まず測って、大きい要因から潰す」のが鉄則です。企業側の取り組みは次の5ステップで進めます。

  1. 現状測定:従業員サーベイにWHO-HPQまたは東大1項目版を組み込み、損失の全体像と主要因(睡眠・筋骨格系・メンタル・アレルギー等)を把握する。
  2. 優先課題の特定:症状別・部署別に損失を試算し、影響が大きく改善しやすいテーマ(例:睡眠、肩こり・腰痛)から着手する。
  3. 施策の実行:睡眠教育やセルフケア研修、昇降デスクやディスプレイ環境の整備、産業医・保健師への相談導線の明確化、花粉症・頭痛など「通院を我慢しがちな不調」の受診勧奨、柔軟な勤務制度(時差出勤・在宅勤務)の整備など、要因に対応した施策を打つ。
  4. マネジメント層の巻き込み:「不調時に無理して出勤することを美徳としない」というメッセージを管理職から発信し、休みやすい・相談しやすい風土をつくる。
  5. 効果検証と継続:年1回以上同じ尺度で再測定し、施策の効果を検証して翌年度の計画に反映する。

施策を選ぶ際は「全員向けの底上げ策」と「ハイリスク者向けの個別策」を分けて考えるのがコツです。全員向けには睡眠・運動・食生活の教育やオフィス環境改善を、ハイリスク者向けには産業保健スタッフによる面談や治療と仕事の両立支援を、それぞれ用意します。経済産業省の健康経営度調査でも、プレゼンティーズムの測定と改善施策の実施は年々重視される傾向にあり、上位企業の多くが睡眠改善プログラムや運動促進イベント、メンタルヘルスのセルフケア研修を組み合わせて展開しています。

当サイトでは、制度面の土台となる健康経営の始め方や、2028年4月から50人未満の事業場にも義務化されるストレスチェック制度についても解説していますので、あわせてご覧ください。

個人でできるセルフケア:今日から試せるチェックリスト

個人でできるセルフケアのチェックリスト

プレゼンティーズムは個人のセルフケアでも一定の改善が期待できます。次のチェックリストで、自分の「隠れ不調」を点検してみましょう。

  • □ 睡眠時間を6時間以上確保できているか(起床時刻を一定にする)
  • □ 1時間に1回は立ち上がり、肩・腰のストレッチをしているか
  • □ 頭痛・花粉症など慢性的な不調を「我慢」で済ませず受診しているか
  • □ 昼休みに短い休息や仮眠(15〜20分)を取り入れているか
  • □ 不調が2週間以上続くとき、上司や産業保健スタッフに相談できているか

とくに影響が大きいのは睡眠です。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上の睡眠を確保することが推奨されています。就寝前のスマートフォン使用を控える、休日の起床時刻を平日と2時間以上ずらさない、カフェインは就寝の5〜6時間前までにする、といった基本を整えるだけでも、日中の眠気と集中力は変わってきます。また、肩こり・腰痛対策としては、椅子の高さとモニター位置の調整、1時間ごとの立ち上がり、通勤での早歩きなど、特別な時間を取らない「ながら対策」から始めるのが継続のコツです。

デスクワーク中心の方は、職場で1日3分から始めるマインドフルネスのような短時間のセルフケアを組み合わせるのも有効です。なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、症状が続く場合は医療機関や産業医にご相談ください。

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