カスタマーマーケティングとは?既存顧客からLTVを伸ばす施策・進め方とKPIを解説
2026.08.25
- BtoBマーケティング
「新規リードの獲得単価が上がり続けている」「受注後の顧客との接点が営業任せになっている」——多くのBtoB企業が新規獲得の限界を感じ始めたとき、次の成長ドライバーとして注目されるのがカスタマーマーケティングです。本記事では、カスタマーマーケティングの基本から、カスタマーサクセスとの違い、代表的な施策、進め方、KPI設計までをわかりやすく解説します。
カスタマーマーケティングとは?基本と注目される背景

カスタマーマーケティングとは、既存顧客を対象に行うマーケティング活動の総称です。新規顧客の獲得(リードジェネレーション)が「まだ自社を知らない相手」に向けた活動であるのに対し、カスタマーマーケティングは「すでに契約・購入している顧客」に向けて、活用促進、追加購入(アップセル・クロスセル)、契約継続、そして他社への推奨(アドボカシー)を促す活動を指します。
注目される背景には、新規獲得コストの高騰があります。広告単価の上昇や競争激化により、BtoBのリード獲得単価は年々上がる傾向にあり、新規一辺倒の成長には限界が見え始めています。一方で、既存顧客への販売は信頼関係がすでにあるぶん効率的です。Bain & Companyのフレデリック・ライクヘルド氏らの有名な研究では、顧客維持率が5%向上すると利益が25〜95%増加すると報告されており、既存顧客の維持・拡大が収益に与えるインパクトの大きさは古くから知られています。特にSaaSやサブスクリプション型ビジネスでは、売上の大半が契約後の継続・拡張から生まれるため、カスタマーマーケティングは「あれば良い施策」ではなく収益構造の中核です。
販売効率の面でも差は歴然です。マーケティング指標の定番書『Marketing Metrics』では、既存顧客への販売成功率は60〜70%である一方、新規見込み客への販売成功率は5〜20%にとどまるとされており、この数字は世界中のマーケターに広く引用されています。同じ売上を作るのに必要な労力が数倍違うのであれば、既存顧客との関係に投資しない理由はありません。それにもかかわらず、多くのBtoB企業ではマーケティング予算・人員のほとんどが新規獲得に配分され、既存顧客向けの活動は「営業やCS担当の頑張り」に依存しているのが実情です。この非対称を正すのがカスタマーマーケティングという機能だといえます。
カスタマーサクセスとの違いと役割分担

「それはカスタマーサクセス(CS)の仕事では?」と思う方もいるでしょう。両者は重なる部分もありますが、役割が異なります。カスタマーサクセスは、担当者が個別の顧客に伴走し、オンボーディングや活用支援を通じて成果創出を支援する「1対1」の活動が中心です。一方カスタマーマーケティングは、セグメント単位・全顧客単位に対して、メール、ウェビナー、コミュニティ、コンテンツなどで働きかける「1対多」の活動です。
実務では、CS担当が全顧客をカバーしきれない「テックタッチ層(接点の少ない中小規模顧客)」への働きかけをカスタマーマーケティングが担う、という分担がよく見られます。また、アップセルの商談化はCSまたは営業が担い、そのきっかけづくり(機能活用状況に応じた案内メール、事例ウェビナーへの招待など)をマーケティングが仕組み化する、という連携も典型的です。THE MODEL型の分業の「その先」を担う機能と捉えるとわかりやすいでしょう。部門間で顧客データと目標(KPI)を共有しないと施策が縦割りになるため、体制設計とデータ連携が成否を分けます。
カスタマーマーケティングの代表的な施策6つ

代表的な施策は次の6つです。1つ目はオンボーディング・活用促進コンテンツです。導入初期の顧客につまずきやすいポイントを先回りで案内するステップメールや活用ガイドは、解約防止の土台になります。2つ目はアップセル・クロスセルの促進です。利用状況データをもとに「上位プランで解決できる課題」が顕在化した顧客へ、最適なタイミングで案内します。3つ目は導入事例の制作です。成果の出ている顧客を事例化することで、既存顧客の成功パターンを他の顧客にも横展開でき、同時に新規獲得の営業資料にもなります。4つ目はレビュー・口コミの獲得です。BtoBレビューマーケティングと連動し、レビューサイトへの投稿を依頼します。5つ目はユーザーコミュニティ・ユーザー会の運営です。顧客同士が活用ノウハウを交換する場は、ロイヤルティと活用度を同時に高めます。6つ目はアドボカシープログラム(推奨者施策)です。自社のファンとなった顧客に、紹介・登壇・共同発信などで「推奨者」として活躍してもらう仕組みです。
すべてを一度にやる必要はありません。自社の解約理由・拡張売上の構造を見て、インパクトの大きいところから着手しましょう。なお、事例化やレビュー依頼は「お願いのタイミング」が肝心です。導入直後ではなく、顧客が成果を実感した直後(目標達成の報告があった、更新をポジティブに決めた、NPSで高評価を付けた等)に依頼すると、承諾率も内容の質も大きく上がります。CSや営業が把握している「顧客の成功の瞬間」をマーケティングに連携するフローを作っておきましょう。
進め方5ステップ

ステップ1:顧客データを整備する。契約情報、利用状況、サポート履歴、NPSなどの顧客データがバラバラのままでは施策が打てません。まず「誰がどの状態にあるか」を一元的に見られる状態を作ります。ステップ2:顧客をセグメントする。契約規模、活用度、契約更新時期、業種などで顧客を分類し、「活用が進んでいない更新間近の顧客」「活用度が高くアップセル余地のある顧客」など、優先セグメントを定めます。ステップ3:セグメントごとのゴールと施策を設計する。解約防止セグメントには活用支援コンテンツ、拡張セグメントには事例ウェビナーやプラン診断、推奨セグメントには事例化・レビュー依頼、という形で対応づけます。ステップ4:実行を仕組み化する。MAツールやCRMを使い、利用状況・契約時期をトリガーにした自動配信やCS・営業への通知フローを組みます。ステップ5:効果を計測し改善する。施策ごとの反応と、後述のKPIへの寄与を確認しながら、四半期単位で見直します。
小さく始めるなら、「更新90日前の低活用顧客への活用支援メール」と「高活用顧客への事例化・レビュー依頼」の2本から着手するのがおすすめです。どちらも既存データで始められ、効果も見えやすい施策です。
KPI設計と失敗パターン

カスタマーマーケティングの代表的なKPIは、解約率(チャーンレート)、更新率、NRR(売上維持率:既存顧客からの売上が拡張・解約込みで前年比何%になったか)、アップセル・クロスセル金額、事例・レビュー獲得数、コミュニティ参加率などです。特にNRRは「既存顧客基盤だけで事業が成長しているか」を示す指標として、SaaS企業の経営指標に広く使われています。NRRが100%を超えていれば、新規顧客を1社も増やさなくても既存基盤だけで売上が成長している状態を意味します。
あわせて導入したいのが「ヘルススコア」です。ログイン頻度・主要機能の利用状況・サポート問い合わせの傾向・NPSなどを組み合わせて顧客の健康状態を点数化し、スコアが下がった顧客を解約前に検知して先手を打つ仕組みです。新規向けのリードスコアリングと発想は同じで、対象が既存顧客に変わったものと考えるとわかりやすいでしょう。スコア設計は最初から精緻にせず、「更新に効く行動は何か」を仮説ベースで数項目から始め、実際の解約・継続データと突き合わせて磨き込んでいきます。
よくある失敗も押さえておきましょう。失敗1:新規向けメルマガの転用で終わる。既存顧客には「知ってもらう」情報ではなく「使いこなす・広げる」情報が必要です。失敗2:全顧客に同じ施策を打つ。活用度も契約規模も違う顧客に一律配信すると、反応が薄いだけでなく解約予備軍の発見も遅れます。失敗3:CS・営業と目標がバラバラ。アップセルのリードをマーケが作っても、追う部門と評価がつながっていなければ放置されます。失敗4:効果測定を施策単位で完結させる。最終的にNRRや更新率に効いているかまで追わないと、活動量だけが増えていきます。カスタマーマーケティングは部門横断の取り組みであるため、KPIツリーを共有したうえで小さく始めて広げることが成功の近道です。
Semuis株式会社では、BtoB企業のマーケティング・営業プロセスの設計支援を行っています。「既存顧客向けの施策を仕組み化したい」「解約防止とアップセルの体制を作りたい」という方は、お気軽にお問い合わせください。

Semuis株式会社 代表取締役。BtoBマーケティング・セールス支援、ECコンサルティング、BPO、リスキリング事業を展開。まだ世に広まっていない優良企業の発掘と、挑戦欲の高い個人の成長に貢献することにコミット。趣味はブラジル音楽と筋トレ、読書など。note→ https://note.com/yamakami_semuis
