メンター制度とは?導入5ステップと厚労省マニュアルの活用法を解説
2026.09.18
- BtoBマーケティング
若手の早期離職、管理職の育成余力の不足、テレワーク下での関係構築の難しさ。こうした課題への打ち手として、多くの企業がメンター制度の導入を検討しています。一方で「何から決めればよいのかわからない」「導入したが形だけになった」という声も少なくありません。
メンター制度は、設計の順番を間違えなければ再現性のある仕組みです。本記事では、厚生労働省が公開している「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」の5ステップを軸に、制度設計で決めるべき項目、立ち上げ時のスケジュール例までを、人事・育成担当者がそのまま使える粒度で解説します。
メンター制度とは?目的と期待できる効果

メンター制度とは、経験のある社員(メンター)が、若手や後輩(メンティー)に対して定期的な対話を通じて支援を行う仕組みを、会社が制度として整備したものです。業務指導そのものではなく、キャリア形成・職場適応・精神的な支えといった、業務の周辺にある課題を扱う点に特徴があります。メンターという役割そのものの定義はメンターとは?意味・役割の基本で整理しています。
最大の設計上の特徴は、直属の上司をメンターにしない点です。利害関係のある上司には話しにくい内容を扱うため、他部門の先輩社員が担当する「斜めの関係」を意図的につくります。これによりメンティーは評価を気にせず相談でき、同時に部門を越えた社内ネットワークが生まれます。この点が、同じ部署の先輩が業務を教えるOJTやエルダー制度との違いです。
導入目的と実際の効果
日本メンター協会の「メンター制度導入実態調査」(2022年9月実施、有効回答500件)によれば、導入効果について7〜4(普通以上)と回答した担当者は88.2%にのぼりました。制度として一定の手応えを得ている企業が多いことがわかります。
同調査では、導入目的の1位が「職場のコミュニケーション活性化」、2位が「メンタルヘルス対策」でした。また、社員の定着促進策として有効なものの2位に「メンターとの定期的な対話」が挙げられています。つまりメンター制度は、スキル習得のための施策というより、組織内の対話量を増やし、心理的な支えをつくることで定着を促す施策として位置づけられているといえます。この目的の置き方は、後述する制度設計の出発点になります。
厚労省マニュアルの導入5ステップ(前半)

厚生労働省は「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」(平成25年4月、女性社員の活躍推進のためのポジティブ・アクション展開事業)を公開しており、導入手順を5つのステップで示しています。すなわち①目的の明確化 ②ルール・運用体制の構築 ③メンターの選出・育成 ④制度の実施 ⑤面談実施と改善の反復です。ここでは前半の2ステップを掘り下げます。
ステップ1:目的の明確化
最初に決めるのは「何のために導入するのか」です。ここが曖昧なまま制度を走らせると、面談の話題も評価軸も定まらず、必ず形骸化します。目的の候補は、新入社員の早期離職防止、若手のキャリア自律支援、女性管理職候補の育成、テレワーク下での孤立防止、部門間の相互理解の促進などです。
実務上のポイントは、目的を1つに絞ることです。複数の目的を並べると、対象者の選び方も面談テーマも分散します。「入社1〜3年目の定着率を高める」のように、対象と成果を具体的に言い切れる形にしてください。そのうえで、経営層の合意を文書で取っておくと、運用段階で協力を得やすくなります。
ステップ2:ルール・運用体制の構築
次に、制度の骨格を決めます。ここで決める項目は多岐にわたるため、次項で一覧として整理します。あわせて運用体制、すなわち事務局をどの部署が担い、誰が相談窓口になり、どこまでの権限を持つのかを明確にします。事務局が不在のまま現場任せにすると、面談が実施されているかどうかすら把握できなくなります。
この段階で規程やガイドラインの形に落とし込んでおくことが、後の運用を安定させます。運用ルールを規程やガイドラインとして文書化し、対象者全員が参照できる場所に置いておきましょう。
制度設計で決めるべき項目

ステップ2で具体的に決定すべき項目を、チェックリストとして示します。導入検討の会議では、この順に合意を取っていくと議論が滞りません。
- 対象者:新入社員全員か、特定の階層・属性か。人数規模はどの程度か
- 期間:一般的には半年〜1年。期間終了後に継続するかどうかの扱いも決める
- 頻度と時間:月1回30〜60分などの目安。業務時間内に行うか否か
- 場所と形式:対面かオンラインか、社内会議室か社外か
- マッチング方法:事務局による割り当てか、メンティーの希望を反映するか
- メンターの範囲:他部門の先輩に限定するか、直属ラインを除外する条件は何か
- 記録と報告:面談記録を残すか、誰が閲覧できるか、報告の粒度はどこまでか
- 守秘のルール:話した内容をどこまで共有してよいか、例外(安全配慮が必要な場合など)の扱い
- 相性が合わない場合の変更手続き:誰にどう申し出るか、変更を認める条件
- 評価との関係:メンター業務を人事評価にどう反映するか、しないのか
- 効果測定の指標:定着率、エンゲージメント調査、参加者アンケートなど
特に議論が分かれるのが記録と守秘、そして評価との関係です。記録については、「面談を実施した事実(日付・時間)は事務局に報告するが、内容は報告しない」という線引きが実務的な落としどころになります。実施状況の把握と守秘の両立が図れるためです。
評価との関係については、メンター業務を評価に一切含めないと「本業ではない余計な仕事」と受け止められ、負荷の高いメンターほど疲弊します。一方で評価に直結させると、形式的に面談回数だけを満たす行動を招きます。実務的には、メンター経験を管理職登用の要件や育成能力の評価項目に間接的に位置づけ、直接の点数化は避ける設計が取られることが多いといえます。
ステップ3〜5と立ち上げスケジュール例

ステップ3:メンターの選出・育成
メンターの人選は制度の成否を最も左右します。業績が高い社員が良いメンターとは限りません。求められるのは傾聴力、守秘を守る誠実さ、そして自分の経験を押しつけない姿勢です。加えて、本人の同意を必ず取ることが前提になります。選定の観点はメンターの選び方・人選基準とマッチングに詳しくまとめています。
選出後は必ず事前研修を実施します。メンターの役割範囲、傾聴の基本、やってはいけない対応(説教、詮索、自慢話)、困ったときのエスカレーション先を、半日程度でも共有しておくだけで面談の質は大きく変わります。メンティー側にも、制度の目的と「何を相談してよいか」を伝えるオリエンテーションを行ってください。
ステップ4:制度の実施
同マニュアルでは、メンタリングが「初期・深化・解消」の3段階で進行するとされています。初期は関係構築の段階で、自己紹介や雑談が中心になっても問題ありません。深化の段階で本題となる悩みが出てくるため、この段階に入るまでに数回の面談が必要だと想定しておきます。解消はメンティーの自立に向けて関係を終える段階です。初回から核心的な相談を期待すると、双方が「うまくいっていない」と感じてしまいます。
面談の進め方に迷うメンターは多いため、事務局から質問例を配布しておくと実施率が安定します。初期の面談であれば「最近の業務で手応えを感じた場面はありますか」「困ったときに相談できる相手は社内にいますか」「入社前に想像していた仕事との違いはありますか」といった問いが使いやすいでしょう。深化の段階では「3年後にどんな仕事をしていたいですか」「今の仕事で一番時間を取られているのは何ですか」など、視野を先に向ける問いに切り替えます。質問例を数個持っているだけで、メンター側の心理的な負担は大きく軽くなります。
ステップ5:面談実施と改善の反復
実施状況をモニタリングし、期中と期末にアンケートで双方の声を集め、次期の設計に反映します。アンケートでは「面談は予定どおり実施できたか」「話しやすかったか」「相談したい内容を相談できたか」「運用上の負担はどの程度か」の4点を、メンター・メンティー双方に同じ形式で尋ねると比較しやすくなります。改善の反復こそが、この5ステップの要です。
立ち上げスケジュールの例
目安として、検討開始から運用開始までは3〜4か月を見込むと無理がありません。1か月目に目的の設定と経営層の合意形成、2か月目にルール策定と規程の文書化、3か月目にメンター候補への打診・選出とメンター研修、メンティーへの説明会、4か月目に初回面談の開始という流れです。以降は3か月ごとに実施状況を確認し、半年後に中間アンケート、1年後に制度全体の見直しを行うサイクルを組みます。
まとめ:形骸化させないための要点

メンター制度の導入を成功させる要点は、突き詰めれば3つです。第一に、目的を1つに絞ること。対象と成果を具体的に言い切れる形にできれば、以降の設計判断はすべてそこから導けます。第二に、守秘と評価の線引きを先に決めること。この2つが曖昧なままだと、メンティーは本音を話さず、メンターは負荷だけを感じます。第三に、事務局が実施状況を把握し続けること。制度は放置すると必ず形骸化します。
導入の判断に迷う場合は、メンター制度のメリット・デメリットを整理したうえで、自社の課題に対して他の施策より適しているかを比較検討してください。厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和4年3月卒)によれば大卒の3年以内離職率は33.8%、高卒は37.9%であり、若手の定着は多くの企業に共通する経営課題です。メンター制度はその一つの有効な打ち手になり得ます。
まずは全社導入を目指さず、1部門・10組程度のスモールスタートで半年運用し、アンケートで手応えを確認してから広げる進め方をおすすめします。小さく始めれば、設計の不備も早期に修正できます。
Semuis株式会社では、BtoB企業の人材育成・組織開発のご支援を行っています。メンター制度の目的設定から運用ルールの策定、メンター研修の設計、効果測定の仕組みづくりまで、自社の状況に合わせた伴走が可能です。「導入すべきか」という検討段階からのご相談も歓迎しております。お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

Semuis株式会社 代表取締役。BtoBマーケティング・セールス支援、ECコンサルティング、BPO、リスキリング事業を展開。まだ世に広まっていない優良企業の発掘と、挑戦欲の高い個人の成長に貢献することにコミット。趣味はブラジル音楽と筋トレ、読書など。
